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聖人の眼
先日、近所のカメラ店で「PETRI C.C Auto 50mm/F1.7」を見つけました。値段は税込み500円、マウントはM42。光学系に致命的なカビやキズはなさそう。表面に付着したゴミや汚れを清掃したら問題なく使用できるだろうと考え、さほど迷うことなく購入した次第。

写真に関心のないかたや若いかたはご存知ないかもしれませんが、PETRI(ペトリ/前身は栗林写真工業)は1900年代初頭の創業という老舗の国産カメラメーカー。風変わりな社名は新約聖書に登場する聖人・ペテロに由来します。残念ながら栗林一族が経営するペトリは1977年に倒産しましたが、当時はカメラの電子化が加速していた時代です。安価な製品がメインだったペトリはこの波に乗り遅れ、労働争議なども重なって事業停止に追い込まれたと聞いています。

今回、入手したレンズはペトリが倒産直前に製造した小型一眼レフMF-1の標準レンズと思われます。自動露出やワインダーによる巻き上げが当たり前となりつつあった時代に、MF-1は古色蒼然としたTTL絞込み平均測光(測光素子は反応の鈍いCdS)のマニュアル機として企画・製造されました。しかも、マウントは独自のスピゴット式ではなく捻じ込み式のユニバーサル規格・M42。交換レンズを自社で用意する余力がなかったのか、社外品で間に合わせてもらおうという意図も見え隠れします。





いずれ、CPUを搭載したキヤノンのAE-1が「連写一眼」というキャッチフレーズで人気を集めた頃ですから、時代遅れのMF-1がいかに安かろうと、国内で支持されるはずなどありません。肝心の輸出も伸び悩む中で社内がごたつき、ついにペトリの経営は破綻。後に会社は組合主導で再建され
(会社名はペトリ工業に改称)、手始めにコンパクトカメラCF-35の製造に乗り出します。しかし、その製品自体は世間の注目を集めることもなく、ペトリは次第にカメラ事業から遠ざかったようです。



上はそのCF-35を紹介している記事(月刊カメラマン/1980年12月号)です。タイトルの「颱風一過・秋本番」はペトリの倒産と復活を指しているのでしょうか。いずれ、これを読んでもCF-35の製品としての優位性はあまり伝わってきません。

小型軽量で写りが良くレンズバリアを装備したコンパクトカメラとしては、前年(1979年)に発売されたOLYMPUS XAの完成度が格段に高く、その前にもMINOX 35ELやRICOH FF-1などの魅力ある製品が存在しました。また、観音開きのバリアもペトリのCF-35が先駆ではありませんし、翌年には同様の仕組みでよりコンパクトなCHINON Bellamiが登場します。


ただ、ペトリのカメラは機能面での古めかしさとは裏腹に、独特の内部機構を持つユニークなモデル、斬新かつ奇抜なデザインのモデルが多かったのも事実です。それ故、現在でも熱心なマニアが同社の製品を中古市場で掘り起こす一方、関係者に当たってインタビューを試みるなどし、謎の多い社史を紐解こうとがんばっています(興味をお持ちのかたはココをクリック)。

ペトリは経営危機を迎えた末期、交換用レンズの大半を外注していたとか。ただし、ボディとセット販売されることが多い標準レンズを自社で設計・製造するというこだわりは捨てなかったようです。つまり、たまたま私が入手したMF-1の標準レンズにもペトリならではの独自性、技術者たちのDNAが受け継がれているということになるでしょうか。そう考えると、このレンズを500円で手に入れることができたのは僥倖かもしれません。

なお、この標準レンズの構成は4群6枚のオーソドックスなガウスタイプのようです。外観は非常に簡素で金属の鏡胴の周りのリングは質感の低いプラスチック製。ローレットはゴム貼りではなく、そのプラスチックを削っただけ。絞りリングの値や鏡胴の距離表示も印刷した薄い金属プレートの貼り付け。コストダウンと軽量化のためとはいえ、とてつもなくチープな印象は拭えません。でも、これは
聖人・ペテロの眼なのです。

本日、仕事で出かけたついでに試し撮りしてみました。使用したボディはM3/4(マイクロフォーサーズ)のパナソニックLumix GH3ですから、レンズ本来の性能を引き出しているわけではありませんが、フォーマットの小ささを考慮しても「意外とよく写るなあ」というのが正直な感想です。下の画像はすべてJPEGの撮って出し、ノートリミングでリサイズしたのみとなっています(開放は露出オーバーになるので、絞りは概ねF2.8-F5.6くらい。画像クリックで800x600に拡大)。

2枚目のフラミンゴは微妙な描写ですが、これは被写体とレンズの間に少々汚れたガラスがあったためでしょう。